2012年8月26日日曜日

2012年8月8日 節電営業


 友人の家に着いて、シャワーを借り、しばらく寝た。
 友人も夜行列車で旅行をしたことがあるらしい。
 友人は私がシャワーを浴びている間に、私のための布団を敷いて、すぐに寝たようだ。昼から仕事なので、それまでに疲れをとりたいそうだ。
 

 昼過ぎ、友人は料理の下ごしらえを始めた。高校の頃を思い出した。
 バレンタインの日に、男だけでお菓子を作ってきて、皆で食おうというアイディアが出た(ちなみに発案者は、私を泊めてくれている彼だ)。
 私もホットケーキミックスを買い、母の指導のもとバナナのケーキを作った。翌日、男十数人が集まって、それぞれのお菓子を食べたのだが、その中でもだんトツで旨かったのが、この友人の作ったチーズケーキだったのだ。
「夕方には、休憩で一度帰ってくるわ。その時飯食おう」
 友人はそう言うと、私の目の前に野菜ジュースを置いた。
 職場の制服に着替えた友人は、自転車の鍵を持って玄関に向かった。私は恋人でもないのに、彼を見送り、友人が散らかしっぱなしの食器を洗った。
 特にやることもないので、私は適当に漫画本を読みあさった。
 友人の家に来て、漫画本を読むだけなんて何年ぶりだろうか。
 夕方に一度、友人が帰ってきて、仕事の愚痴を聞きながら飯を食った。
 お客を目の前にする商売というのはどうにもマニュアル通りに行かず、ストレスがたまる。それが、ガラの悪いお客が集まるお店なら尚のこと。
 友人はやたら「世界の車窓から」とか石塚さんのグルメの番組を録画していた。
「旅に出たいなー」
 友人が叫んだ。
「出るならどこよ?」
 友人は腕組みをして、「わかんねえ」と答えた。
「とりあえず、どっか行きたい」
「どっか行くか、二人で」
 友人は困った顔をして、「俺に出来るのは、お前に宿泊所を貸すぐらいだよ」と呟いた。
 そういえば、高校の時、こいつは「人生、階段を一歩一歩なんてつまらねえ。俺はエレベーターで一気に頂上まで上がる!」と言っていた。落第続きの彼が、なぜか奇跡が起きて大学に受かった時に言った台詞だ(彼は高校時代の宿題をまだ提出してない。そういうやつだった)。そんな友人がいつの間にか丸くなっているのを確認して、私は少々寂しくなった。
 友人は夜中まで仕事だ。営業が終わっても、店の片付けがある。
 私は夜中、近くのコンビニに行った。全然目的などない散歩だ。
 コンビニが妙に薄暗かったので、私は閉店作業をしているのかと思った。今時二十四時間営業でないコンビニなんて珍しいなどと呑気なことを考えながら、中を覗くと、明らかにお客さんが数人いた。
 コンビニの入り口には「節電営業中」の張り紙。
 私は九州からずっと見てきたのだ。こんな薄暗いコンビニは初めて見た。
 九州でも至る所で節電営業の張り紙はしてある。それでも、ここまで薄暗い、まして、閉店作業と見間違うほど電気を消しているコンビニは初めて見た。
 頭の中に、九州の煌々とした街が浮かんだ。
 東京は、節電という言葉に対する重みが違う。


 明日はいよいよ福島だと思うと、緊張してきた。

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