駅に戻って、私は駅員さんに声をかけた。聞いておきたいことがあったのだ。ツイッターで入手した情報によると、広野町で花火大会があるらしい。私はそれを見ておきたかった。
旅の出発前、いわき市の観光情報を調べた。
福島の一部が観光客を呼ぶなんて、そんなことは福岡の人間は考えてもいない。全てが放射性物質で汚染されていると勘違いしている人がたくさんいる。
しかし、ある意味でそれは仕方のないことだと思う。
ネットで福島のことを調べたら、危険な区域の写真や動画ばかりが目立つ。
ほんの少し前、作家の柳美里さんは、福島の美しいところを見に行きたいとツイッターで呟いていた。哀しいところだけを掘り下げたくないという理由で。その発言の意義がわかった気がした。
皆が皆、町の閑散としたところだけをピックアップしたら、それを見た人は町全体が閑散としていると勘違いしてしまう。
私もそういう伝え方はしたくなかった。
駅員さんに尋ねると、花火大会のことは詳しく知らないようだった。いわき市から通っているため、地元の情報は知らないそうだ。震災前は祭りの情報が駅にもすばやく伝わっていたが、震災後はどうも情報の伝達が鈍いらしい。タクシーの運ちゃんに聞くのが一番というアドバイスをされ、私はタクシー乗り場へ向かった。
駅の前は、タクシーの運転手さん達の休憩所になっていた。皆タバコをふかし、談笑していた。
私は近づいて「少しお尋ねしたいことがあるんですけど」と声をかけた。
少し空気が張りつめた。
私の身なりと言えばミリタリーシャツに、カメラを二台首から提げている。フィルムの入ったカバンは腰に巻き、キャップにサングラス。見た目は完全にジャーナリストだ。
警戒されたのかもしれない。
私は「観光で来たんですが、ここで花火大会があるんですか?」と言葉を切り返した。
意外にも運転手さんは笑顔になり、すぐに教えてくれた。
花火大会は明後日あるらしく、今までとは別の場所で花火が上がるようだ。昔花火を上げていた場所は、現在も瓦礫撤去の作業をしている。昼の十五時から出店が出るらしく、運転手さん達は「ほら、あそこの○○が△△の店出すんだよ」と楽しそうに話していた。
訛りのある会話だが、私は九州の居酒屋を思い出した。タバコを銜えて会話する顔はどこの町でも同じだ。
私がお礼を言って駅に向かうと、「絶対来いよ」と背中に声をかけられた。
この町の力強さを感じた。
広野町を走る車のほとんどは除染活動をしている業者さんの車。
防護服を着て乗車している人もいる。
この道をまっすぐ行くと楢葉町へ向かう。一般人はまずいない。
広野町の田んぼにはこういった看板が立っている。
田んぼの土壌、収穫された米の放射線量測定が義務づけられている。
広野町の民家の畑。今は誰も面倒を見ていない。
放射線量の数値が安全を示す値でも町に帰って来る人は少ない。
広野町の比較的内陸の様子。
建物は無事、時折人が歩くが、町とは思えないほど静かだ。
床屋も閉店中。
民宿は作業員さんで一杯。
作業員向けなのか、ほとんどの自動販売機が百円でジュースを買える。
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